子宮の腫瘍
子宮の腫瘍には大きく分けて 1.良性腫瘍 と 2.悪性腫瘍 があります。
1.良性腫瘍
子宮筋腫
子宮にできる良性腫瘍の代表的なものです。
子宮の中でできる部位や大きさにより症状はさまざまです。症状がないものは経過観察をすることが多いですが、以下の症状がある方は一度治療をご相談ください。
症状
(1)月経の量が多い
血の塊がでる、貧血になる、重症の場合は輸血を必要とすることもあります。貧血の原因を解消する目的で治療を必要とします。
(2)圧迫症状がある
明らかにお腹のうえから硬いしこりを触れる、尿が近い(膀胱圧迫症状)といった症状を軽減する目的で治療を必要とします。
治療
(1)手術
- 子宮全摘術:子宮ごと摘出する手術です。月経はなくなりますが、年齢に応じて卵巣は残しますので、“ホルモンバランスが崩れる”“更年期症状がおこる”といった心配はありません。
- 子宮筋腫核出術:筋腫のみを摘出する手術です。多くは、術後に妊娠予定がある方に対して行います。子宮全摘術と比較して、手術の際の出血が多くなる傾向があり、しばしば輸血を必要とします。また、手術後の妊娠出産の際には帝王切開を必要とします。
- 当科ではいずれの手術も積極的に腹腔鏡下手術を行っています。
- 粘膜下筋腫(子宮の内部に突出するタイプの筋腫)は大きさにより子宮鏡(内視鏡の一種)による手術を行います。
(2)薬
子宮筋腫そのものをなくすことができる薬はありません。
症状を軽くする目的でホルモン剤(GnRHアゴニスト)や止血剤を使用することがあります。
悪性腫瘍
子宮頸がん
子宮頸部(子宮の出口の部分)にできるがんです。
性交後出血などがきっかけで見つかることもあります。
子宮がん検診を受けることが大切です。無症状の方でも1~2年に1回の検診を受けることにより、がんが初期の段階やがんの一歩手前(高度異形成)で見つかる可能性が高くなります。
治療法は、病気の進行程度や患者さんの年齢、全身状態により選択します。
治療
(1)手術
- 円錐切除術:子宮頸部だけを円錐状に切除する手術です。お腹は切らず、膣から行う手術です。子宮自体は残りますので、治療後の妊娠・出産が可能です。高度異形成やごく初期の子宮頸がんに対して行います。
- 子宮全摘術:子宮ごと摘出する手術です。当科では開腹で行っています。病気の進行程度により、“単純子宮全摘術”“広汎子宮全摘術”といった術式を選択します。広汎子宮全摘術は、婦人科手術全体の中でも大きな手術の一つです。
(2)放射線
手術での摘出が難しい進行がんの方や手術を受けることが難しい高齢の方に対して行っています。放射線を
①お腹の上から照射する(全骨盤照射)
②膣から線源を挿入して腫瘍に照射する(腔内照射)
③膣から腫瘍に向けて針状の線源を刺して照射する(組織内照射)
といった方法を組み合わせて行います。当院放射線科や兵庫医大病院(放射線科)と協力しながら行っています。
(3)化学療法(抗がん剤)
子宮頸がんに対して抗がん剤単独で治療することは少なく、多くは放射線治療と組み合わせて行います。
子宮体がん
子宮体部(月経を生じたり妊娠したりする部分)にできるがんです。不正性器出血がきっかけで見つかることがほとんどです。
子宮体がんは子宮頸がんと異なり、必ずしも検診が有効とは言えませんが、逆に、不正出血をきっかけにして見つかった子宮体がんの多くがⅠ期(初期)であることから、症状(出血)がみられる場合は、すみやかに婦人科を受診なさることをおすすめします。
閉経したのに月経のように出血する方、50歳前後になり月経不順か不正出血かわからない方はご相談ください。
治療法は、病気の進行程度や組織型、また患者さんの年齢や全身状態により選択します。
治療
(1)手術
子宮全摘術:子宮ごと摘出する手術です。子宮体がんは術前にⅠ期と診断された方でも術後約5%の方に卵巣への転移が見つかることがあるため、原則として両側卵巣もあわせて摘出します。手術は原則として開腹で行っていますが、適応のある方には腹腔鏡での手術をすすめています。
当科では、2017年2月より、初期の子宮体がんに対する腹腔鏡下子宮全摘術を開始しました。
(2)抗がん剤
子宮体がんに対して抗がん剤単独で治療を行うことは少なく、進行がんの方や一部の方に対する術後補助療法として行っています。
子宮肉腫
非常にまれな腫瘍です。
MRI検査などを行っても正確に診断するのは難しく、術前に子宮筋腫と診断した方が術後に子宮肉腫と診断されることもあります。
卵巣の腫瘍
卵巣の腫瘍には1.良性腫瘍、2.悪性腫瘍、3.境界悪性腫瘍 があります。
卵巣腫瘍はMRI検査などを行っても正確に診断するのは難しいため、原則として手術により摘出したものに対して病理検査(顕微鏡による検査)を行うことにより診断が確定します。
1.良性腫瘍
- 多くは“卵巣嚢腫”と呼ばれるもので、腫瘍の内容の違いによって“漿液性嚢胞”“粘液性嚢胞”“皮様嚢腫”“チョコレート嚢胞”などの名前がついています。まれに、“線維腫”などの固形の腫瘍もあります。
- 腫瘍が大きくなるにつれ、捻転(お腹の中で卵巣腫瘍を支えている卵管が捻じれること)や破裂(嚢腫の袋が破れて内容がお腹の中にこぼれること)により腹痛を生じるリスクがあり、ときに緊急手術を必要とします。また、サイズの大きなチョコレート嚢胞はごくまれに悪性腫瘍(卵巣がん)の原因になる可能性があるともいわれています。
- これらの症状やリスクを軽減するために手術をすすめます。当科では術前に良性卵巣腫瘍と診断した方に対しては原則として腹腔鏡での手術を行っています。
2.悪性腫瘍
- “卵巣がん”と呼ばれるものがほとんどです。(まれに、胃がんや大腸がん、乳がんからの転移のことがあり、その場合は“転移性卵巣悪性腫瘍”として卵巣がんとは区別しています。)
- 卵巣がんはしばしば急激に進行し、がん性腹膜炎や腹水(お腹の中に水がたまること)を生じます。
- 卵巣がんは、子宮頸がんのような定期検診による早期発見は難しいのが現状です。“最近急激にお腹が大きくなってきた、あるいはお腹がはってきた”“内科を受診したらお腹に水がたまっているといわれた”といった、患者さんの自覚症状によるところが大きいため、このような症状のある方は速やかにご相談ください。
卵巣がんの治療
原則として手術と化学療法(抗がん剤)の組み合わせで行います。
病気の進行程度や患者さんの年齢、全身状態によります。
(1)手術
両側の卵巣卵管・子宮・リンパ節・大網を摘出します。手術により進行期を診断する目的があるため、術前に初期と診断されている方に対しても同じ手術を行います。開腹手術で行います。
(2)化学療法(抗がん剤)
手術で卵巣がんと診断された方に対して、ほぼ全例に術後化学療法(抗がん剤)を行います。
また、進行がんのため手術による摘出が困難と予想される場合には、抗がん剤を手術に先行して行うこともあります。
手術+化学療法終了後も、再発がないかどうか外来で定期的に経過観察を行います。
3.境界悪性腫瘍
- 良性腫瘍と悪性腫瘍の中間の性質を持った腫瘍です。
めったに再発しませんが、術後10年以上経過してから再発する例もあるため、長期にわたり外来で経過観察する必要があります。
月経・更年期・閉経後
月経について
多くの方が10代前半に月経がはじまり(初経)、50歳前後で閉経を迎えられますが、その間に月経量・月経痛をはじめ、さまざまな症状に“ホルモンバランスの乱れ?”という不安を覚える方がいらっしゃるかもしれません。
これらの症状のほとんどは生理的な変化であり心配いりませんが、以下のような症状をお持ちの方は治療を必要とする可能性がありますので、一度ご相談ください。
- 中学校卒業(15歳)の時点で初経がみられない
- 40歳未満の時点で3か月以上月経がない(妊娠その他、明らかな原因がない場合)
更年期症状について
40歳以上の方で、顔のほてり(ホットフラッシュ)として自覚される方が多いようです。
更年期症状は年齢による体の変化であり、病気ではありません。閉経を迎える頃には症状が落ち着くことがほとんどですが、日常生活にも支障をきたすほどの症状に対しては治療を行うことがあります。
一方で、これらの年代の方に体調不良の自覚がある場合、まず更年期障害といわれることも多いのですが、実はその中に、血圧の異常や甲状腺の病気など内科の病気が隠れていることがあります。
婦人科だけでなく、一度内科でもご相談ください。
閉経後について
おおむね50歳前後で閉経した後、骨粗鬆症や萎縮性膣炎などを生じる方がいらっしゃいます。女性ホルモン分泌の低下が原因です。年齢による体の変化でもありますが、程度が著しい場合には治療を行うことがあります。
特に以下のような症状をお持ちの方は、一度ご相談ください。
- どちらかというと痩せ型で、最近急に腰痛がひどくなった
- どちらかというと痩せ型で、最近急におりものが増えた
骨盤臓器脱について
子宮・膀胱・直腸といった骨盤内の臓器(の一部)が膣口からでてくる現象です。
女性ホルモン分泌の状況とは直接関係ありませんが、加齢により骨盤内の筋力が低下することにより生じやすくなるため、閉経後の年代の方に多くみられます。
程度にもよりますが、ときに排尿トラブルの原因となることもありますので、以下の症状をお持ちの方は、一度ご相談ください。
- トイレで座った時や入浴中しゃがんだときに膣から何かやわらかいものを触れる